
©2017 BC Pictures LLC All rights reserved.
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2019年11月15日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー公開される映画『ベル・カント とらわれのアリア』についてご紹介しています。
映画『ベル・カント とらわれのアリア』作品情報

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【原題】
Bel Canto
【原作】
アン・パチェット
【製作年・国】
2018年・アメリカ
【監督】
ポール・ワイツ
【脚本】
アンソニー・ワイントラーブ
【キャスト】
ジュリアン・ムーア、渡辺謙、加瀬亮、クリストファー・ランバート、セバスチャン・コッホ、テノッチ・ウエルタ、マリア・メルセデス・コロイ、エルザ・ジルベルスタイン、オレク・クルパ
【本編尺】
101分
【作品概要】
映画『ベル・カント とらわれのアリア』の原作は2001年に出版されたアン・パチェットのベストセラー小説です。
1996年にペルーで実際に起きた日本大使公邸占拠事件から着想を得たとされ、PEN/フォークナー賞とオレンジ賞(現在のベイリーズ賞)のフィクション部門最優秀賞を受賞したほか、Amazonベスト・ブック・オブ・ザ・イヤーにも輝いています。
映画化においては、ジュリアン・ムーアと渡辺謙、そして加瀬亮が共演するとして大いに話題になり、更に、クリストファー・ランバート、セバスチャン・コッホといった豪華なキャストが脇を固めます。
南米某国の大統領邸を突如占拠したテロリストたちと、それに巻き込まれた各国の招待客ら。その中でいつしか生まれる心の交流と悲哀が感動的に描かれています。
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映画『ベル・カント とらわれのアリア』のストーリー!ネタバレ注意

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実業家のホソカワ(渡辺謙)は、南米某国の政府から直々に、副大統領邸で開かれるパーティーに招かれます。
彼はこの国の政府から工場誘致を依頼されており、その彼をもてなすために企画されたものでしたが、そこにはフランス大使のティボー(クリストファー・ランバート)ら各国のVIPも招かれていました。
当初は気乗りのしなかったホソカワですが、長年ファンだった世界的オペラ歌手ロクサーヌ・コスによるサロンコンサートが開かれるとあっては話が別です。
そこで通訳のゲン・ワタナベ(加瀬亮)を伴って、遠路はるばるやって来たのでした。
ロクサーヌとの対面を果たしたホソカワは、コンサートの最後に大好きな『月に寄せる歌』が披露されると聞いて感激し、最前列の席に着きました。
ところが、これからロクサーヌの歌声に酔いしれようという間際、銃声とともにテロリストらが乱入して来ます。“南リバタリアン運動の戦士”を名乗る彼らの目的は、マスダ大統領を捕えることでした。
しかしこの日、大統領は急遽欠席しており、テロリストたちはロクサーヌやホソカワ、ワタナベ、ティボーら、その場にいた全員を人質にして立てこもります。

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翌朝、赤十字国際委員会からの使いメスネル(セバスチャン・コッホ)が派遣されて来ると、テロリストの指揮官ベンハミン(テノッチ・ウエルタ)は、
「自分たちの要求は刑務所に拘束された政治犯全員の釈放だ」
と彼に伝え、有名人であるロクサーヌ以外の女性や使用人を解放することに応じました。
ところがここで、ロクサーヌを案じて取り乱したピアノ伴奏者が、その様子に驚いたテロリストの少年によって射殺されてしまいます。
これについて、工場誘致に気乗りしないにもかかわらずロクサーヌの歌声を独占したいという個人的な思いだけで招待に応じて来たホソカワは、自分に責任があると言って侘びました。
対するロクサーヌもやはり、気乗りがしないのにお金のためにやって来た自分こそが責められるべきだと言いました。
それから1週間の膠着状態の後、
「テロリストとの交渉は行わない」
とする政府は、副大統領邸の水道を止めるという強硬手段に訴えます。この事態にテロリストの指揮官ベンハミンは、人質になっているのが誰なのか思い知らせるために歌って欲しいと、ロクサーヌに依頼します。
悩んだ末に決意したロクサーヌは、邸の屋上から魂の込められた見事な歌声を披露します。これに対しテロリストたちと人質は一様に大きな拍手を送り、その様子は現地取材のテレビ局によって世界中に伝えられました。

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これを見たマスダ大統領は人質の安全を最優先とするよう声明を出し、邸への給水が再開されることとなりました。
この出来事をきっかけに、テロリストと人質という立場の垣根を超えて、邸内の人間模様には変化が見られるようになります。
ロクサーヌに歌を教えて欲しいと頼むテロリストの少年、フランス大使のティボーを父親のように慕う少年、ワタナベに外国語を教えて欲しいと頼むテロリストの女性カルメン(マリア・メルセデス・コロイ)。
そして、互いの距離を徐々に縮めつつあるロクサーヌとホソカワ、互いに惹かれ合うワタナベとカルメン・・・。
いつしか、人質たちは幼くしてテロリストとなった少年たちの境遇や実直さを誉め、テロリストたちは教養溢れる人格者である人質たちに敬意と親愛の情を抱くようになっていたのです。
やがて彼らは食卓も共に囲むようになり、目に見えて確かな絆が育まれていました。
しかし、そんな穏やかな邸内の生活とは裏腹に、外界では業を煮やした政府が最後の手段に出ようと準備を進めていたのです。
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ある天気の良い日中のこと、テロリストたちは陽射しの温かい庭に人質たちを連れ出すと、そこに転がっていたボールで共にサッカーを楽しみ始めました。
すると突然、爆音とともに突入して来る政府の特殊部隊。次々と銃弾に倒れるテロリストたち。
この事態を受けて人質に銃を向けるテロリストたちでしたが、既に絆の深まった相手に引き金を引くことはできません。
人質たちもまた特殊部隊に対して攻撃を止めるよう求めるも、容赦なく撃ち込まれる銃弾にテロリストたちは1人、また1人と倒れていきます。
恐怖のあまり銃を捨てて逃げ出すカルメン、その後を追うワタナベ。
一方、ロクサーヌの身を案じて邸内に飛び込んだホソカワは、ロクサーヌと、銃口を向けられたカルメンの姿を見つけます。咄嗟にカルメンを庇おうと立ちはだかったホソカワは、ロクサーヌの目の前で銃弾に倒れるのでした。
そして1年後・・・。
ロクサーヌは復帰コンサートを開いており、その傍らにはマネージャーにでもなったのかワタナベの姿がありました。
そして客席には、カルメンと、一命を取り留めたホソカワの姿がありました。
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映画『ベル・カント とらわれのアリア』の感想と評価

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テロリストと人質というあまりに住む世界の異なる人々が、次第に心を通わせるという人間本来の可能性を訴えつつ、それが叶わない非情な現実と悲哀をも描き出す本作・・・。
モデルとなった1996年のペルーでの日本大使公邸占拠事件では、テロリストらは全員が死亡し、人質の中にも犠牲者が出たとされます。
フィクションよりも遥かに残酷な現実がある中、本作においては、ゲン・ワタナベと惹かれ合い、銃を捨てて逃げ出したカルメンがテロリストの中では唯一生き延びており、ホソカワらと一緒にロクサーヌの歌声を鑑賞する姿には一縷の希望を感じさせます。
本編の中で彩りを添えてくれるロクサーヌの歌声ですが、これは『シェイプ・オブ・ウォーター』の挿入歌「ユール・ネヴァー・ノウ」でも知られるソプラノ歌手、ルネ・フレミングが吹き替えを担当しています。
ロクサーヌを演じたジュリアン・ムーアは、彼女から歌い方や佇まいを学んで役作りに励んだそうです。本編では喉の動きからブレスのタイミングまで、あたかも目の前でジュリアン・ムーアが歌っているかのような臨場感を放っていました。
ちなみに、ルネ・フレミングは2001年と2006年にメトロポリタン歌劇場の公演で、2014年6月には新国立劇場オペラパレスで開催された「東京国際コンサート」に出演するために来日しています。

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さて、各国の豪華なキャストが集結した感のある本作ですが、個人的に唸らされたのが、加瀬亮の実に自然かつ表現豊かな演技力であります。これまでも高い評価を受けている彼の演技ですが、今回は再認識させられる結果となりました。
特に今回は通訳者の役ということもあって、実に6ヶ国語(日本語、英語、スペイン語、ロシア語、ドイツ語、フランス語)を使い分けての演技です。
話せない私が言うのも妙ですが、いずれもとても自然な発音のように思えましたし、特にカルメンとの会話では感情表現も見事でした。
それにしても、本作が問いかけるテーマはとても奥深いように感じます。歴史や境遇、教養など生きる目的が違っていたとしても、必ず共通する人間性が備わっているはず・・・。
映画の中では極限の状況下で絆を深め合う人間たちですが、最初から結局はお互いが同じ人間なのだという当たり前のことに気づければ、もしかしたらとっくに心を通わせることができるのかも知れません。
そう思うと、何かとゴチャゴチャしている人間の世界って、もう少しまともな方向へ一斉に進む方法がないものかと考えさせられます。
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